2014/12/11| 七福萬来
(日本語) 芸人論
先月、春風亭昇太さんの独演会へ行ってきたときの話。
今回のネタは 「花筏」「化け物使い」「富久」の三席。
「富久」は、古典落語の大ネタで、しかも人情噺。昇太らくごからしてみるとレアです。
幇間芸人(たいこもち)の久蔵は、人はいいが酒癖が悪く、その酒癖の悪さで得意先をしくじっている。
季節は冬。仕事もなく、貧乏暮らしをしている久蔵は、道端で偶然会った知り合いから、なけなしのお金で富くじ買うことになる。
信心深い久蔵はその富くじを、大神宮(だいじんぐう)さまの神棚に入れる。
その夜、遠くで火事が。
その火事の場所が、久蔵がしくじった得意先の住んでいる場所だった。
近所の人から「今から旦那(得意先)のとことに駆けつければ、詫びが叶うかもしれないよ。」との助言に、冬の寒い江戸の深夜に駆け出す。
幸いなことに火事は収まり、得意先も無事で、久蔵の献身的な姿勢に旦那さまも今後の出入りを許してくれた。
旦那の店で火事見舞いに貰った酒を飲み、そのままつぶれて眠り込んでしまったら、今度は久蔵の住む町内で火事が発生する。
起こされた久蔵は、またまた寒い深夜の江戸の町を駆け出す。
しかし残念なことに、久蔵の長屋は丸焼けとなる。
焼きだされた久蔵は旦那の家に居候するが、方々に借金もあるので居心地がよくない。
そんな中、久蔵の買った富くじが一番富千両当たる。
ただ火事で富札を燃やしてしまったことで一文ももらえないことになり、やけっぱちになるが奇跡が起こる。というハッピーエンド的なストーリー。
噺の終盤は会場のあちらこちらですすり泣く声が聞こえ、私も涙をこらえることができないほど、素晴らしいライブでした。
独演会が終わり、打ち上げに行き、みんなと別れた後、「もう一杯行くか?」と昇太さん。
そして夜な夜な新宿ゴールデン街へ。
小さなカウンターだけの店でハイボールで乾杯。
「久蔵はいい奴なんだよ。憎めない、誰からも好かれる男なんだ。そうじゃないとこの噺(富久)は成立しないんだよ。」
いつのまにやら芸談に。
・・・憎めない、誰からも好かれる男 かぁ~・・・
妙にその言葉が頭に残り、久蔵の姿が、そして仕草が、思い起こされてきました。
ハイボールを3杯ずつ飲んで、バーを後にしたあと、ラーメン屋にハシゴ。
ふと見ると、昇太さんはラーメンの汁をほとんど飲み干していました。
・・・お腹が減っていたんだ・・・
考えてみれば、楽屋でも、打ち上げでも、みんなを退屈させないようにしゃべりっぱなしだったので、ゆっくり食事できてなかったのでしょう。
・・・憎めない、誰からも好かれる芸人・・・
久蔵と昇太さんが妙にカブった瞬間でした。
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