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春の陽気

バッタリ人と出会うことはよくあることですが、親しい人と広い東京でしかも人ごみの中で出会うと驚きもあり、懐かしさもありです。

朝10時過ぎ、新橋駅構内で私の後ろから駆け寄ってくる気配を感じたかと思うと、腕をつかんで「おい」と言われました。

まるで犯罪者を捕まえるような刑事のような動作に一瞬身構えました。

悪いことしているわけじゃありませんが、「私はやってません!」と言いそうになりながら振り返ると、落語研究部時代の先輩がそこにいました。

「あれぇ~先輩じゃないですか。ビックリしたぁ~!」

この方、私より7歳年上の先輩で、今でも年に何回か会うほどの親しい先輩です。

テレビの放送作家をやっていて、どうやら日本テレビに用事があったよう。

「テレビ(未来世紀ジパング)見たぞ!普通だった!」

「スミマセン。・・・もっと褒めてくれればいいのに・・・」

「金曜日から笑点の収録で徳島だけど・・。」

「昇太さんから聞いています。・・・ん?徳島に来いってことかな?・・・」

「お前、いつまで(東京に)いるんだ!」

「はい、あさってまでいます。・・・一杯飲むつもり?・・・今日の夜も明日の夜も空いてます。」

先輩から予定を聞かれるということは、「飲みに行くぞ」 と意味でもあり、とっさにそう答えました。

「今日も明日もオレの都合が悪い。じゃあな。」

「はい。失礼します。・・・残念・・・」

後ろ髪引かれる思いで先輩と別れ、振りかえるとすでに人ごみに消えていました。

この広い東京で、偶然にもバッタリ出会う確率ってかなり低いと思うのです。

もしあと10分、いや1分でも時間がズレいたら・・、でかい通路の端っこを歩いていたら・・、靴ひもを結び直すのにしゃがんでいたら・・、きっと出会わなかったでしょう。

それにしても、私も見かけ、追いかけてまで声をかけたかったくせに、毒づいた会話をしてきた先輩。

その顔には照れがあり、またにじみ出る仲間意識があり、きっと私の顔もそうだったと思います。

春の陽気を心からも感じたひとときでした。

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