2016/03/24| 七福萬来
(日本語) 愚痴と涙
テレビの向こう側で謝っている人をよく見かけます。
教育現場のみなさん、政治家のみなさん、芸能人のみなさん、スポーツのみなさん、一流企業のみなさん・・。
一様に深々と頭を下げています。
報道番組で露出が多かった経営コンサルタントなる人物も、学歴詐称があったとして涙ながらに陳謝していました。
ガラス張りの世の中に身をさらしている人たちにとっては自業自得とはいえ、当事者の流す涙は、口に出せない愚痴なのかもしれません。
これはある知り合いの営業マンの話。
今日は十何回目の結婚記念日で、いつも苦労をかけている奥さんと夕食をするためレストランを予約していました。
17時までに仕事を終えた彼は、そそくさと帰り支度を始めたその時に得意先からクレームの電話が・・。
そしてとりあえず先方の会社に直行しました。
かなり深刻な状況になっていて、その場を離れる理由が結婚記念日だとは言えない状況だったそうです。
トイレに行くふりをしたわずかな時間に、レストランをキャンセル、奥さまに手短に詫びの電話をしました。
クレームの直接原因は彼ではありませんでしたが、ただひたすら謝り、やっと得意先から解放されたのは夜10時近く。
奥さまと食事は叶わなかったのですが、せめて乾杯だけはしたいとコンビニでワインを買う。
そして徒歩で帰宅途中、車道と歩道の段差に足を取られてしまい、アスファルトに体とワインが叩きつけられたのです。
ビニール袋に入っていたワインボトルは粉々に壊れ、アスファルトにはじかれたワインが彼の中に染み入り始めた時、彼の心も壊れました。
涙がこぼれそうになったと言っていましたが、本当は泣いたのでしょう。
気持ちはわかります。
立川談志師匠の『現代落語論』という本の中、前座時代のエピソードにも似たようなものがあります。
入門したての16歳。厳しい修行の毎日、寄席帰りに路面電車の停車場でわずかな給金(わり)で買った鯛焼き。
食べようとしたら、手からするりと抜け地面に落ち、しゃがんでついた砂をふり払っていると 無性に涙が出た。というくだりはすごく印象に残っています。
愚痴という涙は誰でもあるものです。
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